誓い

誓い




院長亡き後、院長の御意志を激しく裏切りまくって、修羅かつ畜生な道に堕ちてゆくお兄さまのお話。
院長が「あの人には付いていっちゃダメだよ」って、ちゃんと言ってあるのに…仕方ない子です、この子は。
つーワケでニノマル です。嫌いな方は、Uターンよろしく♪






















「マイエラ修道院“仮”院長、という称号から、“仮”を取りたいか…ふふ、よう分るぞ、マルチェロよ。」

サヴェッラから派遣されて来たニノ大司教は、私の報告書を弄びながら、その肉のたるんだ顎に手をあて、考える動作をした。



「なにせ、さもなければ其方は“ただの”聖堂騎士団長。次のマイエラ修道院長の意向で“いつでも解任”される、か弱い立場に過ぎんからのう…」

弛んだ顎をつまみ、ニノ大司教は私をにやにやと眺めた。

私は、胸が悪くなりそうなその笑みに、だが、愛想笑いを浮かべるしかない。




オディロ院長が亡くなられ、私には“後見人”がいなくなった。


私は、実力で何者かに劣るとは思わない。


だが、現実。


この世界では、私のように“血筋卑しいもの”は、有力な“後見人”なくしては実力を発揮するどころか、存在すらも認められないのだ。





「ですから是非、猊下のお力をもちまして…」

だから私は、誰かに“頼る”しかない。




だが、私の言葉にニノ大司教は、薄ら笑いを浮かべる。

「そこまで儂を頼ってくれると、なんとかしてやりたいがのう。マルチェロよ、なにせ其方は…」

そして嘲笑した。





「聖堂騎士団長でありながら、院長も守れずに“おめおめと生き残った”男じゃからのう…」






私は面を伏せ、血の滲むばかりに唇を噛んだ。




眼前の男を殺したいほどの怒りを覚えるが、無論、それも出来ない。

何より、ニノ大司教の発言は、紛うことなき、事実だった。







私は、“聖堂騎士団長でありながら、院長も守れずにおめおめと生き残った男”だ。







あれ以来、私は女神を呪った。

自分自身も呪った。


ほとんど全てのものを呪い、そして、誓った。




だから私は、自らの立てた“誓い”の為になら、どんな事も耐えよう…そう思い、私は面を上げた。







「左様でございます、猊下。私は、情けなくもおめおめと生き延びました。そのような私ですから、もはや、猊下のお力にお縋りするしかございません…ええ…次期法王との呼び声も高い、ニノ大司教猊下にお縋りするしか…」



ニノ大司教のたるんだ頬が、更に緩んだ。


やはり俗物だ。


“次期法王”の言葉が、よほど快いらしい。


私は追従の言葉を畳み掛けようとしたが、大司教は機先を制した。





「そこまで頼られると、なんとかしてやりたいのは山々じゃが…マイエラ修道院の次期院長を決めるのは、儂ではなく、法王御前の会議じゃからの。儂だけが其方を推薦したとしても、他の聖界諸侯が承知せんじゃろう。」

「ですから、そこを猊下のお力で…些少ながら、猊下にお贈り出来ますものも…」

「儂を金で買収出来ると思うのか…な?」


賄賂が大好物な分際で、笑止な台詞を吐く男に、だが、私は詫びの言葉を吐く。



「滅相もございません。ただ…」

「ただ、儂を上手く使って、己が地位を安泰にしたいだけ…」

ニノ大司教は、厭らしい笑みを浮かべた。




「跪け、マルチェロよ。」

「…は…」

私は、命ぜられるまま、背の低いこの男より、更に頭の位置を下にする。

かつては、私がここまで頭を下げる相手といえば、徳高き“わが父”以外にはなかったものだが…




「其方、儂からの“保護”を受けるために、何を提供するつもりじゃ?」


「我が忠誠と、我が献身を…」

私は返答する。




「それは“真の献身”であり“真の忠誠”かな?」


「無論…」

言いさした私の顎に、大司教の太い指が触れた。




私の顔が、持ち上げられる。




大司教の小さくも邪気に満ちた瞳が、私の瞳と重なった。




「言葉では、なんとでも言える…」

私の頭上から、言葉が投げ落とされた。




「儂が求めるのは、言葉だけではない、本物の“忠誠”であり“献身”…マルチェロよ、其方に差し出す気はあるか?」




「…何をお望みですか、猊下。」

私の問いに、大司教は視線を下す。




「分らんのか?なれば、その聡明な頭で考えてみい、マルチェロよ。“儂は其方に何を望むか”を。“其方は儂に何が出来るか”を。」


「…猊下が新法王におなりになる為の、資金を提供出来ます…」


「無論じゃ。三大聖地の一、マイエラ修道院を委ねるのならば、そのくらいは当然の献身というもの…なにも、其方を院長に任ぜずとも、それならば余人にも叶おう。」


「なれば、聖堂騎士として弛まぬ鍛錬を積んだこの剣で、猊下の行く手を阻む輩を…」


「ふふ、それは良い。其方の聖堂騎士は、さぞや儂の役に立ってくれる事じゃろう。…じゃが、それも、其方でなくては率いれぬという訳でもあるまい。不満そうじゃの?なら、試してみるか?其方を聖堂騎士団長の地位から解任して…」


「でしたら、猊下がお望みになる“私にしか出来ないこと”とは、なんでしょうかっ!?」

思わず語気が荒くなる私に、ニノ大司教はその顔を近づけた。






「無論…“其方自身”に決まっておろう…」

卑猥な笑みが、その顔に浮かんだ。





ペンより重いものを持った事すらなさそうな、奇妙なまでに柔らかい指が、私の唇を撫でた。




「まずは、その唇を、儂に捧げよ。」




表情が凍りつくのが、自分で分った。




分りはしたが、拒む事など出来よう筈もなかった。











口中を這いずる、生熱い肉の塊が、私に絶えがたいほどの不快感を齎す。


表情を取り繕うことも出来ない。





肉の塊は、思う存分、私の中を這いずると、ようやく這い出た。










「悪くない…が、それでは少々、物足りんな…」

「…」

返答する気力もない。




「まあ良い。これからとっぷりと教えてやるだけの事。」

「…」

何を…と聞き返すほど、私は愚かではない。




「マルチェロよ、今一度確認しよう。其方、儂に何を捧げる。」

私は、阿呆のように繰り返す。




「忠誠と献身を…」

「その忠誠は女神に誓って真実か。」

「はい、無論です。」


女神など、今更信じてもいない。

だから、誓いが“真実”などで、あろう筈もない。




「その献身は、真に儂に“全てを”捧げるか?」

「…はい。」











私は、先ほどの口先だけの誓いではなく、今のその誓いが、自分の身に何を約束したかを知っている。


それが、私がこの年まで信じ、そして守ってきたものを泥に塗れさせる行為である事も知っている。







だが




私の信じていたものなど、オディロ院長と共に、とうに泥中に葬られているのだ、今更何を躊躇おう。











「誓うか。」

「誓います。」




私は誓った。








“私の”誓いのために。












眼前の男は、満足そうに笑った。




「ようやく、其方を手にいれられた…」


そんな愚にもつかない言葉を発し、笑い声を立てた。




「ではマルチェロよ…我が穢れ無き“恋人”よ…」


不可思議な呼びかけの言葉の後、男は言った。






「誓いの接吻を…」






2006/11/11




兄貴の唇が…奪われました(笑)
実はアニキのファーストキスはククが頂戴しているのですが、兄貴はそれを知らないので、兄貴的には、ファーストキスの相手はニノ様(笑)
なんとも気の毒な?お話ですが、ニノ様はこんなモンで済ましてなんかくれません。
ええもちろん、この続きは裏です!!





Bride

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