慟哭

慟哭




ドルマゲスイベントで院長が殺害されたあの後。院長を葬るまでの間、棺に寄り添うマルチェロの慟哭。
しかし、いくら蘇生の見込みがない死に方だったとはいえ、夜死んで翌日埋葬って、早すぎるよね?






















我が涙は、我が頬を伝い、そして、ただ、我が父の棺を濡らす。

我が涙は、我が内から流れ出たその時にはまだ温かさを保ってはいるが、冷たい棺を濡らす頃には、とうに冷えている。




我が父よ、貴方の御心と同じだけ温かかった貴方は、



温かい微笑み絶やす事決してなかったそのお顔も、

私を撫でて下さったその御手も、

私を抱きしめてて下さったその腕も、

私が嘗て抱きしめられたその御胸も、


全ては貴方の棺を濡らす、私の涙よりも冷たい。





我が父よ

我が涙の温もりが、貴方の体を再び温めるというのなら、私は体の水分を全て振り絞って泣きましょう。



我が父よ

我が慟哭が貴方の御耳に届き、貴方を再び目覚めさせるというのなら、私は言葉を尽くして生ある限り叫びましょう。






そのどちらも叶わぬという現実。

私はその前で、ただ粛然と涙を流すのみでは済みません。


貴方が決して仰ろうとはしなかった言葉を、私は発するでしょう。


貴方は聖者であらせられたから、貴方は決して憎みも呪いもなさらなかった。



私は聖者などではなく、ただの人の子、ただの“悪魔の子”

だから私は言う。





女神よ、私はお前を呪う!!









我が父よ。

私を心から慈しみ育て、心から愛してくれた我が父よ。


何故に貴方が死なねばならなかったのか!?

誰よりも人に慕われ、そして誰よりも女神に忠実だった我が父よ!!


何故に女神は貴方を救わなかったのか!?










我が父、オディロ院長。

貴方は誰もが慕う、本当の聖者であられた。

貴方は私が貴方と出会った時から既に、老人、と言うべきお年ではあられたけれど、子どものように純粋な心をお忘れにならず、誰にも分け隔てなく、そして惜しみない愛情を与えておられた。



我が父よ、貴方は高徳の聖者であられた。

本来ならば、サヴェッラの至尊の高みに腰掛けていたのは、今の法王ではなく、貴方であった…そう、人々も噂するほどに。


私がそう問うと、貴方はその澄んだ瞳で私を見返し、そして仰ったものだ。

「法王なんて、あんな忙しいものは、ワシのような怠け者には勤まらんよ。今の法王のような働き者に任せておけばよいのじゃ。」

そして、冗談めかして付け加えられた。

「おお、お前は働き者じゃから、法王向きかもしれんなあ。」


私は問うた。

貴方のような女神に最も忠実な方こそ、女神の僕たちを統べるべきではないのかと。

貴方は答えた。

「なあマルチェロや、法王だの大司教だのと言った仰々しい肩書きがなければ、女神様にはお仕え出来ないのかね?」

そして、貴方は限りない慈愛のこもった瞳で、私の目を覗き込んでおっしゃった。




「女神の愛し子であることは同じなのじゃ。ならば、一介の人の子で良かろう?」






オディロ院長

マイエラ大修道院長猊下という尊号を嫌い、ただただ無欲で、そして女神の忠実な僕であった、我が聖なる父上。




私は己が身を呪います。

貴方を守ると誓ったのに、貴方を守れなかった、わが身の無力を呪います。


我が父よ!!

私を唯一愛してくれた方よ!!

たとえ我が身が千々に引きちぎられようとも、それで貴方をお守りできたなら、私は本望だったのです。



私を育てて下さった我が慈父よ。

私を溢れるほどの愛情でくるんで下さった貴方よ。


貴方の不肖の子は、それなのに貴方を守れなかった!!




そして女神は、貴方を救ってはくれなかった。








もう、涙も流れない。

私の涙は、枯れ果ててしまったようだ。



貴方の死を嘆く、悲しみの涙も。

己が無力さを憎み、そして無慈悲な女神を呪う涙ですらも。


もはや私の体内から、枯れ果ててしまった。








ああ、赤子のように見も蓋も無く泣き喚きましょう。

我が父よ、貴方が宥め、諭し、そして抱きしめて下さるのなら。



声も枯れんばかりに慟哭しましょう。

女神が私を哀れみ、貴方の魂を再びこの世に戻してくれるというのなら。






私の涙は枯れ果ててしまった。

如何に涙を流そうとも、誰も、何も、どうとも出来はしないと悟ってしまったから。




我が父よ、貴方亡き今は、もはや私にはなんの援けもありはしないのです。


だから、泣いてなんとしましょう。










女神よ、私はお前を呪う。




お前は私に何をしてくれたか。


私は“悪魔の子”

お前の慈悲届かぬ、呪われた子。

だからお前は年端も行かぬ私を生家から着のみ着のまま母と共に追い出し、野たれ死ぬに任せようとしたのだろう?

魔物に食われんがままに任せようとしたのだろう?



私を助けてくれたのは、お前ではない、我が聖なる父だ。





私は“悪魔の子”

お前の慈悲届かぬ、呪われた子。

だから私はこの修道院で、さんざ不当に蔑まれた

望んだ訳でもない“悪魔の子”という生まれを、罵られた。

だから私は、それを跳ね返すだけの力を身につけた。

私が今の地位を手に入れたは、お前の力など一片も借りてはいない、ただ私の力によってのみだ!!



そして我が父の慈悲あってこそだ!!







我が父は、もうこの世にはあられない。

不当にも、お前がこの世からあの方を奪い去ったから。

だから私は、ただ私の力によってのみ、立とう。




お前が私の父を、お前の力によって奪い去ったように、私は私の力で、全てを奪おう。




お前がもはや、私の父を不当に奪い去ったようには私から何ものをも奪い去れないように、私は力を手に入れよう。




私はこの身を投げ入れよう。

女神よ、お前の名の元に組織された、聖界という魑魅魍魎蠢く毒壷に。




力を

力を

力を




私はそうして力を手に入れよう。




女神よ、いと高きにいます、残忍な女よ。


私は駆け上ろう、お前のすぐ近くまで。

女神よ、いと高きにいます、無慈悲な女よ。



その時こそお前は恐怖せよ。

お前の喉元に突きつけられた我が刃に恐怖せよ。

私は貴様を穢し、そしてその喉笛を切り裂いてやる。









涙枯れ果てた私に恐怖せよ。

貴様の“慈愛”届かぬ私に恐怖せよ。

もはや失う恐怖を知らぬ私に恐怖せよ。





女神よ、我が呪いは、必ずや貴様を微塵に砕かずにはおかぬ!!






2006/1/19




一言要約「女神様なんて大嫌いだっ!!」
院長の死の悲しさのあまり、世界崩壊願望まで抱いちゃう、繊細なマルチェロのお話です。つーか拙サイトのマルチェロの院長好きっぷりは、三十男としておかしい…つーか、人としておかしいです。親離れ出来ていないにも程があります。まあオディロ院長も子離れ出来ていない方なんで、仕方ない…ちゅーより、世界が狭いからこういう事になるんでしょうけど。

なんつーかね、マルチェロってこーゆー三歳児な所があると思うんですよ。つまりはその 肉欲の女と罪の子
「おかあさんなんかきらいだっ!!」
叫んだ時のような、“自分は人の為にがんばってるんだから、もっと自分の思い通りになるべきだ”ちゅー、傲慢というか、ワガママというか、そーゆー子どもじみたところが(だから好きなんですが)。
そして、個人的な見解ですが、その傾向を助長してしまったのが、院長の“あふれんばかりの愛情”なんじゃないかな…と。いや、だからと言って院長も彼を愛してあげなかったら、マルチェロは余計かわいそうな事になったに違いありませんが、いま少し愛情に“節度”というものが必要だったのではないかと思います。おかげで、閉鎖空間で愛情べったり過ぎて、しかもそれに“オディロ院長をお守りするのが神の剣たる聖堂騎士団長の務め”ちゅー大義名分までくっついてしまったので彼は精神的に“自立”出来ずに、院長の“不合理な死”によって、ようやく彼から強制的に引き剥がされて、ああなっちゃったんじゃないかと思います。なんだろう、この続き?の「哀切(下にある奴)」で院長も反省してますが、やっぱり彼は修道院にいるべきじゃなかったんじゃないかな?

そして、微妙に話はズレますが、この次に彼に“べったりとした愛情”を注いでしまったのがニノさまで、彼は彼なりに心からマルチェロの事を愛していたと思うのですが(あくまで拙サイト設定ですよ)結局、マルチェロの心を狭いところに縛りつけ、閉じ込める働きしかしなかったんですね。

うん、だからね。べにいもはオディロ院長とニノさまって、マルチェロに対した有りかたはとても似ていると思うのですよ。方やラヴリィで孫を猫かわいがりするじいさまのような愛し方で、方や油ギッシュで若い愛人を猫かわいがりする中年のオッサンのような愛し方なだけで…あれ?けっこう違うかな?でも、マルチェロは前者は大好きだけど、後者は大嫌いで利用する気しかないワケで…

うーん…こう考えると、「私を愛してくれた人は院長しかいない」ゆーマルチェロの思いは、かなり事実と反してますね。割と周囲の全ての人に(変な形も含めて)愛されてるからね。
つまりは“愛情不感症”なのかな?こりゃ、不感症でも感じちゃうくらい、たあっぷりと愛してあげるしかないですね、ククール!!(そして何故かククールでオチる。)





哀切

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